交通事故の被害者側に特化した札幌の法律事務所

桝田・丹羽法律事務所

加害者の保険会社から、「被害者側の過失」を主張された場合に、親族等の自賠責保険から保険金を先行して受領した際の充当関係について

2020/08/28

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夫が運転する車の助手席に妻が同乗していた際に、加害車両と衝突する事故が発生する場合があります。
 
信号機の設置された交差点で、被害車両が直進、加害車両が右折であれば、一般的には、被害車両:加害車両=20:80の過失割合で整理されています。
このような場合、運転手である夫:加害者=20:80の過失割合で問題がないことが多いです。
 
では、妻の過失についてはどのように取り扱われているでしょうか。
妻は運転に関与してないわけですから、本来的には過失はゼロです。
 
ただ、加害者の保険会社は、夫婦の場合には「被害者側の過失」を主張して、夫と同じく、妻に対しても、妻:加害者=20:80と主張してくることが多いです。
 
「被害者側の過失」については、最高裁で考え方が一応確立されてしまっていますので、少なくとも夫婦に関しては、是認せざるを得ない状況にあります。
 
そうすると、妻についても、損害の2割が過失相殺されてしまいそうに思われます。
 

このような場合、妻としては、2割の過失相殺を甘受しなければならないのでしょうか

この点については、自賠責保険を上手く活用することで、妻の損害を100%回収しうる方策があります。
 
妻は、本件のような事故状況の場合、加害者の自賠責保険と夫の自賠責保険の2つの自賠責保険に損害を請求できることが多いです(運行供用者の問題で、夫の自賠責保険に請求できない場合も考えられます。)。
 
加害者の自賠責保険から受領した保険金は、当然、過失相殺後の加害者の負うべき損害賠償債務に充当されます。
 
では、妻が夫の自賠責保険から受領した保険金はどのような取り扱いになるでしょうか。
 
この問題について、以下のとおり、明確に判示した裁判例がございます。
 

名古屋地判平成27年6月22日

以下のとおり、妻の過失分に先行して充当すると判示しています。
 
「なお、乙9によれば原告X2は、原告X1の加入する自賠責保険から治療費として17万7180円、原告X3は1万1900円の支給をそれぞれ受けているところ、本件訴訟における被告の訴訟活動を弁論の全趣旨として考慮すると、被告は、これらを既払金として充当すべきものと主張していると解される。
ここで、自賠責保険金は被保険者の損害賠償債務の負担による損害を填補するためのものであり、共同不法行為者間の求償関係においては被保険者の負担部分に充当されるべきであると解される(最高裁平成15年7月11日第二小法廷判決参照)。
本件事故は、原告X2及び原告X3の関係では、原告X1と被告の過失が競合して生じたものであり、本来的には、原告X1と被告の共同不法行為ともいうべきところ、原告X2及び原告X3の損害額を定めるに当たり原告X1の過失を過失相殺において考慮したのは、共同不法行為者間の求償を避けるという観点も加味してのものであり、実質的には、被告は、被害者側の過失を考慮することにより、原告X1との関係では自らの負担部分についてのみを原告X2及び原告X3に対して負担した形となっている。
そうすると、上記の給付金は、本件においては、被害者側の過失割合に相当する部分の損害に先行的に充当されるものと解すべきである。実質的に見ても、被害者側の過失を考慮した上で、被害者側の負担でなされた給付金を被告が支払うべき損害から控除するのは、被告に二重の利得を生じさせる結果となって相当でない。
別紙「損害額一覧表」記載のとおり、本件において、過失相殺がなされる前の原告X2及び原告X3の損害額及び過失割合を踏まえると、上記の給付金について、原告X2及び原告X3が、被告に対し請求し得る部分に充当すべきものはない。」
 
※X1が原告車両の運転者、X2及びX3は同乗者
 X1とX2は夫婦
 X3は、X1とX2の子
 
被害者側の出損(自賠責保険料)により支払われる自賠責保険金ですので、当然、被害者である妻の過失に先行して充当されるという結論が、常識に合致しています。
 
名古屋地判平成27年6月22日は、地裁判決ですので、最高裁まで争われると結論が変更される恐れがないとはいえませんが、至極、常識的な結論ですので、変更される可能性は低いように思われます。
むしろ、被害者側の自賠責保険料により支払われた保険金を、加害者の負うべき損害に先行して充当する方が、常識に反する結論と思われます。
 

本件のようなケースについて

したがいまして、少し手間が掛かるのですが、本件のようなケースで加害者側の保険会社が「被害者側の過失」を主張してきた場合には、運転手である夫の自賠責保険に保険金を請求できないか検討する必要があります。
運行供用者の問題等をクリアして夫の自賠責保険に請求できる場合は、そちらを先行して受領して、妻の過失分を埋めてしまうことが得策です。
そうすれば、運転手である夫に過失があるケースでも、妻が100%の損害の補填を受けることができる可能性が出てきます。
 
加害者側の保険会社は、「被害者側の過失」を主張して、過失相殺をしておきながら、さらに運転手である夫の自賠責保険から受領した保険金について、当然のように過失相殺後の損害から既払い金として控除する旨の主張をしてくることが多いです。
 
しかし、そのような考え方は、少なくとも名古屋地判平成27年6月22日によれば、誤っています。
そのような場合には、名古屋地判平成27年6月22日を引用して、保険会社の考え方を正していく必要があります。
加害者側の保険会社が応じないようであれば、訴訟提起に踏み切るべきケースといえます。
 
損害自体が大きくないケースであれば、それほど大きな差は出ない可能性がありますが、重度の後遺障害が認定されているケースでは、受領できる金額に大きな差がでる可能性があります。
 
若干、難しい話ではありますが、加害者の保険会社から、同乗者が「被害者側の過失」を主張された場合には、応用できる考え方ではあります。
類似ケースでお悩みの場合は、お気軽にご相談下さい。

弁護士 丹羽 錬

休業が連続していない場合の休業損害の算定方法について

2019/03/27

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交通事故に遭われた後、交通事故による傷害やそれに伴う症状の治療のために、仕事を休んで医療機関に通院する被害者の方も多く見受けられます。
 
通院による休業のため収入が減少してしまった場合には、相手方に休業損害を請求することができます(有給休暇を使用した場合は、収入は減少しないものの、本来自由に使うべき有給休暇を通院のために使用せざるを得なかったとして、休業損害を請求することができます。)。
 
休業損害の算定方法については、一般的に次のように説明されることが多いです(これを以下「方法1」といいます。)。
 
【方法1】
(事故前3ヵ月間の収入)÷90日×(休業日数)
 
つまり、事故前3ヵ月間の収入を90日で除して、1日あたりの収入を算定し、これに通院のために休業した日数を掛ける方法です。
 
方法1は、土・日・祝日等の休日が90日に含まれているため、交通事故の後に連続して休業している場合に妥当する算定方法といえます(ただし、休業日数に、休業期間中の土・日・祝日等の休日も含める場合に限ります。)。
 
しかし、休業が連続していない場合、例えば、交通事故の後も仕事に行っているが、週に1~2回は通院のために休業している場合などには、基本的に休業日数に土・日・祝日等の休日を含めないことになります。
そのため、方法1を採用すると、1日あたりの収入が実際の損害に見合わないことになってしまい、妥当な算定方法とはいえません。
 
そこで、休業が連続していない場合には、次の算定方法を用いるべきです(これを以下「方法2」といいます。)。
 
【方法2】
(事故前3ヵ月間の収入)÷(事故前3ヵ月間の実勤務日数)×(休業日数)
 
方法2は、事故前3ヵ月間の収入を実勤務日数で除するため、1日当たりの収入が実際の損害に見合ったものとなり、休業が連続していない場合に妥当な算定方法といえます。
 
具体例として、事故前3ヵ月間の収入を90万円、実勤務日数を60日、休業日数を連続していない20日とした場合を考えると、以下のとおりとなります。
 
<方法1>
90万円÷90日×20日=20万円(1日あたりの収入は1万円)
 
<方法2>
90万円÷60日×20日=30万円(1日あたりの収入は1万5000円)
 
算定方法の違いだけで10万円もの差が出ることになります。
 
これだけの差が出るにも関わらず、休業が連続していない場合でも、保険会社は方法1によって算定した休業損害を提示することがほとんどです。
したがって、本来支払われるべき適正な休業損害が支払われていない被害者の方も、残念ながら多数いらっしゃるのではないかと考えられます。
 
治療期間中に、方法1で算定された休業損害を支払われていた被害者の方でも、最終的な示談交渉の場面において、方法2で算定された休業損害に引き直し、方法2で算定された休業損害と、方法1で算定されて既に支払われている休業損害との差額を請求することは可能です。
 
「自分に支払われている休業損害の額は適正なのか」
「保険会社から提示された休業損害の額は適正なのか」
等、ご懸念がある場合は、専門的知識を有する弁護士にご相談されることをお勧め致します。
 
弁護士 水梨雄太
 

懲罰的損害賠償を認めた裁判例

2018/12/13

懲罰的損害賠償とは、加害行為の悪質性や反社会性が高い場合に、将来の同様の行為を抑止する目的で、実際の損害の賠償を上回る賠償額を課すことをいいます。
 
アメリカやイギリスでは採用されていますが、日本では採用されていないとされています。
 
日本の不法行為法における損害賠償の目的は、不法行為によって生じた損害を塡補することであるとされていて、不法行為を行ったものに対する制裁や、不法行為の抑止は、刑事法や行政法の目的であると考えられています。
 
実際、制裁的な慰謝料を求めた京都地裁平成19年10月9日判決の事案では、明確に排斥されています。
 
【事案の概要】
大型商業施設内の駐車場にて、8歳の男児が、加害者の前方不注意により加害車両に衝突され轢過されて亡くなられたという事案です。
 
加害者は、速度超過、整備不良運転の罰金前科を有していたほか、赤信号無視等の交通違反歴が12件あり、過去2回の運転免許停止処分を受け、事故当時は3回目の運転免許停止中でした。
 
被害男児のご両親らは、制裁的慰謝料の請求を求めていました。
 
【裁判所の判断】
「原告らが主張するところは、原告らが実際に被った損害以上の賠償(いわゆる懲罰的損害賠償)が認められるべきというものである。しかしながら、不法行為に基づく損害賠償制度は、被害者に生じた現実の損害を金銭的に評価し、加害者にこれを賠償させることにより、被害者が被った不利益を補てんして、不法行為がなかったときの状態に回復させることを目的とするものであり(最高裁大法廷平成5年3月24日判決・民集47巻4号3039頁参照)、加害者に対する制裁や、将来における同様の行為の抑止、すなわち一般予防を目的とするものではなく、加害者に対して損害賠償義務を課することによって、結果的に加害者に対する制裁ないし一般予防の効果を生ずることがあるとしても、それは被害者が被った不利益を回復するために加害者に対し損害賠償義務を負わせたことの反射的、副次的な効果にすぎず、加害者に対する制裁及び一般予防を本来的な目的とする懲罰的損害賠償の制度とは本質的に異なるというべきである。したがって、不法行為の当事者間において、被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、上記の不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであるから(最高裁第二小法廷平成9年7月11日判決・民集51巻6号2573頁参照)、懲罰的損害賠償を認めることはできないものといわざるを得ず、原告らの主張を採用することはできない。」
 
加害者の前科、前歴、結果の重大性を考慮すると、かなり酷い事案といえますが、原則どおり否定されています。
 
しかしながら、懲罰的損害賠償を認めた裁判例も存在します。
 
京都地裁平成元年2月27日判決です。
 
【事案の概要】
マンション建設に際して、施工業者と建設に反対する近隣住民とが再三交渉を重ねた結果、作業時間等について、合意がなされたにもかかわらず、施工業者が故意に、合意に違反して工事を行ったという事案です。
 
【裁判所の判断】
「右認定のように故意による債務不履行の場合には、懲罰的ないし制裁的性質を有する慰藉料の支払義務を科することができるものと考える。
わが民法においても、米法上いわれているのと同様に、当事者は予見可能な損害さえ賠償すれば契約を破り、経済的合理的計算により他の契約と乗り換えることもでき、いわば、契約を破る自由なるものが認められてよい場合があるが、これは損害賠償の負担を前提としていえることであり、しかも、通常の商品売買などの取引的契約の違反についていい得るものであるから、前認定のように原告らが苦心と努力の結果、建築工事に伴う騒音等による精神的苦痛を防止する目的で成立した本件和解条項に違反する行為を故意に敢えて行なった本件では、それ自体違法な行為であるから予見される具体的な騒音等による財産的損害、精神的損害が立証されない場合でも、なお、債務不履行ないし契約違反自体による精神的苦痛に対し、その違反の懲罰的ないし制裁的な慰藉料の賠償を命ずるのが相当である。」
 
裁判所は、「懲罰的ないし制裁的な慰謝料の賠償を命ずるのが相当」と明言しています。
 
地裁の裁判例が1つあるからといって、直ちに交通事故事案にも援用できるかといえば、そんなに簡単な話ではありません。
 
しかしながら、故意による債務不履行事案とはいえ、懲罰的ないし制裁的な慰謝料を認めた裁判例が存在すること自体、大きな意義があるといえます。
 
弁護士 丹羽 錬

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