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自保ジャーナル No.2194(令和7年11月27日発行)に弊所で担当した自賠責が因果関係を否定したTFCC損傷について札幌地裁が併合12級を認めた裁判例が掲載されました

2025/12/16

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この度、弊所が担当いたしました交通事故の損害賠償請求事件(札幌地裁 令和7年3月19日判決)が、『自保ジャーナル No.2194』に「新しい判例⑤」として掲載されました。
自賠責保険では因果関係が否定され非該当とされていた左外傷性TFCC損傷について、裁判所は、事故との因果関係を肯定して、後遺障害等級12級を明確に認めました。
画像所見に乏しいとされるTFCC損傷における因果関係立証の技術的なポイントを示す、重要な判決です。
                                        

事案の概要

青信号の横断歩道を自転車で進行中の原告(57歳)が、赤信号を無視して交差点内に進入した被告運転の乗用車に衝突された交通事故です。
原告は、左外傷性TFCC損傷(三角線維軟骨複合体損傷)、頸椎捻挫、左肩関節打撲傷等の傷害を負いました。
自賠責保険の認定:頸部痛・左上肢の痺れ等および左肩痛についてそれぞれ第14級9号を認め、併合14級と判断されました。
左手関節の症状(TFCC損傷):画像上の異常所見が不明瞭であることや、受傷当初の診断書に傷病名が認められないことから、事故との相当因果関係を否定し、後遺障害には非該当とされていました。
原告の主張:左外傷性TFCC損傷に基づく左手関節痛(12級13号)と左手関節機能障害(12級6号)が残存し、併合12級に該当すると主張しました。
                                        

裁判所の認定のポイント

裁判所は、自賠責保険が否定した左外傷性TFCC損傷の因果関係を詳細に検討し、原告の主張を認めました。
 

受傷機序と事故の因果関係の認定

事故態様と荷重の立証 裁判所は、原告の「本件事故の際、転倒を避けるためとっさに左手を地面について踏ん張った」という供述を信用できると認定しました 。そして、この動作により「原告の左手関節に大きな荷重が作用したと認められる」とし 、この事実が原告が本件事故により左外傷性TFCC損傷を受傷したことを推認させるものであると判断しました。
 
症状及び画像所見との整合性 さらに、受傷当初から左手首の疼痛を訴え、症状固定時にも残存したという症状の継続性を確認しました 。特に、「腕を捻ったとき、手首を小指側に曲げたとき、ドアノブを捻るときや鍋を持ち上げるときに、手関節尺側に痛みが出現すること」や「動作時のクリック音(手が抜ける感じ、slack)が生じること」といったTFCC損傷の医学的知見上の症状と、原告の症状が整合的であると判断しました。
また、MRI検査の結果、TFCCの「disc properの不連続」や「断裂」が認められたこと、さらに輝度変化が確認されたことも、因果関係を肯定する重要な根拠とされました。
これらの事実認定により、「原告は、本件事故により、左外傷性TFCC損傷を受傷した」と明確に認定されました。
 

後遺障害等級の認定

事故による左外傷性TFCC損傷に起因する症状について、以下の通り後遺障害等級を認定しました。
左手関節痛:左外傷性TFCC損傷という「他覚的所見」に基づき、第12級13号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当。
左手関節機能障害:左手関節の可動域制限が認められ、第12級6号(1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの)に該当。
その他の障害(頸椎捻挫後の頸部痛、左上肢のしびれ、左肩痛等)の第14級9号の認定と併せ、最終的に併合第12級の後遺障害が残存したと判断されました。
 

担当弁護士の所感

本判決は、外傷性TFCC損傷の裁判例として、その因果関係と後遺障害等級の立証における重要な指針となるものです。
 
特に、因果関係の点について、自賠責保険は、事故から約2週間以内に「TFCC損傷」という傷病名が付されないと、事故とTFCC損傷との因果関係を認めない傾向にあります。
本件も、事故当初から手首の痛みを医師に訴えており、医療記録にもその旨の記載があるにもかかわらず、「TFCC損傷」の診断が付されたのが事故から2週間以上経過した後であることを理由に、自賠責保険では事故とTFCC損傷との因果関係が否定されました。
本件訴訟では、まず、この因果関係に関する自賠責保険の判断を覆すことが最も重要なポイントでした。
この点については、具体的な受傷機序(左手をついたことによる大きな荷重)と医療記録の記載による主張・立証が成功しました。
 
後遺障害等級の点についても、手首のMRIの所見、手首に関する検査の所見、症状経過、症状が仕事や日常生活に与えている支障等を具体的に主張・立証することにより、後遺障害等級12級の認定を得ることができました。
 
交通事故において手首に受傷し、「TFCC損傷」と診断される被害者の方は散見されますが、TFCC損傷は自賠責保険において適正な等級が認定されにくい印象があります。
しかしながら、有意な医学的所見や仕事・日常生活への支障がある場合には、訴訟提起をすることによって、適切な等級認定を得ることが可能であると思います。
交通事故によるTFCC損傷でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
 
弁護士 水梨 雄太
 

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