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自賠責保険と労災保険の後遺障害認定の違い

実情

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自賠責保険は、労災保険の後遺障害の認定基準に準拠して、後遺障害を認定しています。そのため、自賠責保険も労災保険も同じ事故による同じ怪我であれば、同じ後遺障害等級が認定されると考えてしまいがちです。
しかし、実務上、自賠責保険と労災保険で認定される後遺障害等級が異なることが散見されます。
認定される等級としては、労災の方が重い(高い)等級の印象です。
実際、実務の文献にも以下のとおりの記載がなされています。

 【『民事交通事故訴訟の実務Ⅱ(ぎょうせい)』173頁以下抜粋】

 『一般的には、労災認定の方が等級が高く、被害者側に有利な結果が出ます。』
 『一般的に言いますと、労災で高い等級が認定されていても、自賠責保険で
 は低い等級になる場合があります。』 
 

近時の弊所の事案

当事務所で過去に取り扱った事案においても、以下のとおり、自賠責保険と労災保険で認定される後遺障害等級が異なることが散見される状況です。
    
自賠責保険非該当→労災保険14級
自賠責保険 14級→労災保険12級
自賠責保険 14級→労災保険11級
自賠責保険  9級→労災保険 5級    
 

自賠責保険と労災保険の両方に後遺障害の申請ができるのか?

大前提として、
車での通勤中に発生した交通事故(通勤災害)
業務中の交通事故(業務災害)
においては、自賠責保険、労災保険の両方に後遺障害の申請を行うことが可能です。
いわゆる2重取りはできないのですが、労災保険においては、加害者から受領する賠償金とは別に支払われる特別支給金が用意されています。
そのため、後遺障害が問題となる事案では、必ず請求すべきということになります。
 
「交通事故では加害者の保険会社が対応するから、労災保険を使用する必要はない」などと誤解されている方も多いのですが、自らに過失がある場合はもちろん、そうではない無過失のいわゆる100:0の事故の場合であっても、特別支給金が用意されていますので、労災保険を使用する意味があります。
 

違いが生じる理由

自賠責保険と労災保険の後遺障害認定において違いが生じる理由は、根拠法規の目的、認定主体、認定の基礎となる資料、認定基準、認定対象が異なることにあります。
特に、以下の3点が、自賠責保険と労災保険の認定する後遺障害等級が異なる(労災の方が等級が重くなりやすい)大きな要因となっていると推測されます。
 
①労災保険の根拠法規である労働者災害補償保険法は、基本的に専ら労働者の保護に主眼が置かれている。
②労災保険は認定主体が普段から労働者の保護に尽力している労働基準監督署長である。
③労災保険は労基署の担当者が被害者である労働者から自覚症状や就労への具体的な影響について実際に聴き取りを行う。
 

裁判例37例の傾向

自賠責保険と労災保険で認定された後遺障害等級が異なり、等級が争いになった裁判例37例の分析結果は以下のとおりです。
  

認定等級の違いについて

 労災の方が等級が高い   36(97%)          
 自賠責の方が等級が高い    1( 3%)
      
97%で、労災の方が高い等級が認定されていました。
(ただ、労災の方が等級が低い場合、積極的に証拠として提出されていないことも考えられますので、全体としてここまでの差異があるのか、正確な実態は分からないともいえます。)
      

裁判所の認定

 自賠責と同じ等級   20(54%)
 労災と同じ等級     6(16%)
 両者の間の等級     9(24%)
 両者より低い等級     2( 6%)    
      
「自賠責と同じ等級」が54%(20例)と半数以上であり、裁判所が自賠責保険の認定結果を重視している傾向が確認できます。
「労災と同じ」は、16%(6例)です。
ただ、「労災と同じ」と「両者の間」を足すと、40%(15例)となります。
つまり、自賠責と労災で等級が異なる場合、4割くらいで自賠責の認定より高い等級が認定されているともいえます。
もちろん、個々の事案ごとに分析が必要ではありますが、労災の方が等級が高い場合、一応、訴訟提起の価値があるといえる結果になっています。
(判決に至らずに和解で解決しているケースの方が数としては圧倒的に多いと思われます。和解の場合、判決のように結論を黒白はっきりさせる必要がないので、自賠責と労災の間の等級を前提とした内容で解決されているケースがもっと多いのではないかと推測されます。)
      

むち打ちの裁判例(9例)

裁判所の認定

 自賠責と同じ等級     4(44%)
 労災と同じ等級     3(33%) 
 両者の間の等級     2(22%)
 両者より低い等級     0( 0%)    
        
合計で55%(5例)で、自賠責の認定より高い等級が認定されており、むち打ちは、労災の等級がある程度考慮されている傾向が確認できます。
        

裁判所の判断の傾向

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裁判所は、症状重視で多少の医学的所見があれば、労災認定も有力な証拠の1つとして、被害者救済の方向で認定している印象があります。
理由として、むち打ちは、認定される等級が12級、14級、非該当であり、自賠責と労災の差がさほど大きくないことが影響しているように思われます。

▶実際の裁判例の詳細はこちら
        

高次脳機能障害の裁判例(7例)

裁判所の認定

 自賠責と同じ等級    5(71%)
 労災と同じ等級    1(14%)  ※
 両者の間の等級    0( 0%)
 両者より低い等級    1(14%)    
  ※ただし、労災の方が等級が低いレアな事案
        
高次脳機能障害で、自賠責と労災の認定が異なる場合、自賠責の認定がかなり尊重されている印象です。
7例に過ぎませんが、自賠責と労災で等級が異なった場合に、自賠責の認定より等級が上がったケースはゼロでした。
        

裁判所の判断の傾向

自賠責が高次脳機能障害を否認したケースは、裁判所も全て、高次脳機能障害を否定していました。
つまり、労災の高次脳機能障害の認定は、ここで取り上げた6件は全て覆されて否定されてしまっています。
        
理由としては、「画像所見がない」か、プラス「意識障害がない」か、プラス「症状の推移がおかしい」で否定されていました。
労災が高次脳機能障害を認定する根拠とした画像所見は、加害者側保険会社の顧問医の意見書で、否定されてしまっている印象を受けました。
高次脳機能障害の事案で、自賠責と労災の等級が異なる場合に、自賠責の認定よりも高い等級を求めての訴訟は傾向としてはかなり厳しいので、立証面で弁護士がかなり頑張らないといけないといえます。
        
なお、ここで取り上げた7例はすべて3級以下の事案です。
流石に1級や2級では、判断が異なりにくいということかもしれません。

脊髄損傷の裁判例(4例)

裁判所の認定

 自賠責と同じ等級    2(50%)
 労災と同じ等級    0( 0%)
 両者の間の等級    1(25%)
 両者より低い等級    1(25%)   
        
脊髄損傷の事案で、自賠責と労災の認定が異なる場合、自賠責の認定が尊重されている傾向がみられます。
4例と事案が少ないですが、75%に相当する3例が自賠責の認定と同じか、それより低い等級と判断されてしまっています。
        

裁判所の判断の傾向

裁判所は、画像所見、神経学的所見を厳密にみている印象です。
症状についてもカルテ等から細かく認定しています。
そのため、画像所見の有無の判断が自賠責寄りの厳しいものとなり、症状についても、カルテ等に矛盾が存在しないか細かく精査しているため、労災認定より等級が低くなっている印象があります。

CRPSの裁判例(3例)

裁判所の認定

 自賠責と同じ等級    1(33%)
 労災と同じ等級    1(33%)
 両者の間の等級    1(33%)
 両者より低い等級    0( 0%)   
 
CRPSに関しては、3例に過ぎないのですが、うち2例が自賠責の認定より高い等級が認定されており、労災認定が尊重される傾向があるように思われます。
        

裁判所の判断の傾向

労災は、主治医の診断書重視で認定している印象です。
自賠責は、CRPSの3要件(関節拘縮、骨萎縮、皮膚変化)の有無から厳格に認定している印象です。
裁判所は、自賠責が重用する3要件を重視しつつも、それ以外の事情も考慮して認定しています。
裁判所は、骨折等の明確な器質的損傷があり、一応、うっすらとでも3要件があるといえるのであれば、被害者救済の方向で認定している様子が見て取れます。

可動域制限の裁判例(6例)

裁判所の認定

 自賠責と同じ等級    4(67%)
 労災と同じ等級    0( 0%)
 両者の間の等級    2(33%)
 両者より低い等級    0( 0%)   
         
6例ではありますが、労災と同じ等級を認定した裁判例はなく、裁判所が自賠責に近い認定をしているのが分かります。
        

裁判所の判断の傾向

労災は、主治医の見解、労災医員や面談時の可動域を前提に素直に認定している印象です。
自賠責は、可動域制限の原因となる器質的損傷の有無を厳格に確認している印象です。
裁判所も、可動域制限の原因となる器質的損傷の有無を重視しており、更にカルテ等も精査して判断している印象です。 

その他の裁判例(7例)

裁判所の認定

 自賠責と同じ等級    4(57%)
 労災と同じ等級    1(14%)
 両者の間の等級    2(29%)
 両者より低い等級    0( 0%)   
        
57%(4例)が自賠責と同じ等級認定であり、やはり裁判所は、自賠責の認定結果を重視している印象です。
        

裁判所の判断の傾向

労災は、現実の労働への支障を重視して後遺障害を認定している印象です。
自賠責は、労働への支障等の実態ではなく、固い医学的基準を重視して後遺障害を認定している印象です。
裁判所は、固い医学的基準を重視しながらも、被害者の症状の存在が証明されれば、カルテの記載や労災の認定を参考にして、自賠責よりは柔軟な認定をしている印象です。

裁判例37例の全体の印象

労災は、主治医、労災医員、担当者の面談、労働への支障を重視して後遺障害を認定している印象です。
自賠責は、固い医学的基準を重視して認定している印象です。
裁判所は、基本的に自賠責に近い印象ですが、症状が重くて、その立証に成功すれば、労災認定も参考にして認定している印象です。
当然ですが、何もないよりは、労災の高い等級の認定結果がある方が訴訟では有利と思われます。
結論として、高い等級の労災認定の資料は、訴訟において、被害者側に有利な証拠の1つという位置づけと思われます。
かなりアバウトな印象になりますが、高い等級の労災認定の資料は、画像鑑定よりは価値が少し低いが、その他の医学的所見1つよりは、重きが置かれているぐらいの印象を受けました。
  

自賠責と労災の後遺障害の認定基準の違いの影響

自賠責は、基本的に労災の認定基準に準拠しています。
しかし、一部(高次脳機能障害、醜状障害、むち打ち等)は基準自体が若干異なっており、そのことも、認定される等級に違いが生じる原因の1つとなっています。
認定基準が異なる理由として、一般的に、労災は労働者を対象としているが、自賠責は労働者に限らず幼児、学生、高齢者等全ての人を対象にしているという違いがあることが挙げられます。
      

異議申立の際の自賠責の対応

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自賠責と労災で認定された後遺障害等級が異なる場合に、労災の認定資料を添付して、自賠責に異議申立をすると、以下のような定型文言を記載して、等級の違いについて説明してくることが多いです。

自賠責の定型文言

なお、自賠責保険(共済)と労災保険とではその制度の趣旨や認定主体が異なり、また等級認定のための資料や判断等に差がある場合もあることなどから、その等級評価が必ずしも一致するものではないことを申し添えます。


労災において高い等級が認定された資料を添付しても、それだけで自賠責の認定が変わることはないといって良い状況です。
自賠責の当初の判断を覆すのであれば、自賠責が重視している医学的根拠を追加で添付する必要があります。
(労災の認定資料の開示を受けると、その中に医師が医学的根拠を記載した書類が含まれていることがあります。その場合は、その医師が記載した部分に関しては自賠責の判断にも影響を与えると思われます。)
  

取るべき対応

自賠責に対する異議申立(再申請)

自賠責と労災で認定された後遺障害等級が異なる場合、労災で認定された高い等級を主張して相手方保険会社と任意交渉をしても、労災の等級を前提とした示談がまとまることは普通ありません。
そのため、最初に考えるべきことは、自賠責に異議申立をして等級変更を求めることです。
前述のとおり、自賠責は労災の高い等級の認定があっても、それだけではほとんど影響を受けない印象です。
したがいまして、結局は自賠責の定める医学的基準を満たす証拠を探すことが必要になります。
その際、労災の認定過程の資料の開示を受けることは有益です。労災の認定過程において、医師が症状の医学的根拠について言及している書類が含まれていることがあるからです。その書類を添付して異議申立をして、等級変更がなされれば望ましいということになります(ただ、大事な部分が黒塗りになっていることも少なくないです。その場合、回答をしたと思われる医療機関に記録の開示を求める必要があります。)。
    

訴訟提起

異議申立をしても等級が変更されないのであれば、訴訟提起を考えることになります。
ここまで記載したとおり、自賠責と労災の認定した後遺障害等級が異なる場合、裁判所は自賠責の判断を重用している傾向があります。そのため、労災の方が高い等級を認定したからといって、直ちに訴訟提起をすれば、労災の認定した等級が認められるという状況にはないです。
ただ、裁判所は労災の認定等級も参考にしている印象がありますので、現実の自覚症状による支障等の立証に力を入れて、訴訟提起をするということは十分に意味があると思われます(前述のとおり、37例の裁判例の分析では、40%が自賠責より高い等級を認定しています。)。
裁判所も医学的な根拠を重視している点は自賠責と変わりませんが、裁判所は症状による被害の実態にも目を向けています。事故前後の変化、事故後に自覚症状で苦しんでいる実情等を訴訟で明らかにできれば、判断に影響を与える可能性が出てきます。
また、異議申立の際と同様、労災の認定過程の資料の開示を受けて、そこに有益な医師の見解等が含まれていれば、裁判所の判断に影響を与えることになります(訴外の情報開示で広範に黒塗りにされてしまった部分も、裁判所を通じて改めて開示を求めると黒塗り部分が少なくなって開示されることがあります。)。