交通事故の被害者側に特化した札幌の法律事務所

桝田・丹羽法律事務所

症状固定時期が争われる場合②

2015/06/07

-加害者側が、後遺障害診断書に記載された症状固定日より、もっと早い時期に症状固定していると主張して、治療費・通院慰謝料・休業損害の一部について、争ってくる場合-
 
症状固定とは、治療の効果が期待できない状態を意味しますので、症状固定日以降の治療については、効果がなく、症状の改善に繋がるものではないということになります。
したがいまして、症状固定日以後の治療は、交通事故とは相当因果関係がないということになります。
 
それ故に、加害者側は、後遺障害診断書に記載された症状固定日より、もっと早い時期に症状固定していると主張して、主張する日以降の治療費、通院慰謝料、休業損害の減額を求めてくるのです。
 
裁判例の多くは、医師が後遺障害診断書に記載した症状固定日を、損害賠償額算定における症状固定日と認定していますが、それとは異なる日を症状固定日として独自に認定している裁判例も散見されます。
 
この点に関して、髙木健司裁判官は、2013年赤本講演録において
「症状固定日に関する医師の判断を踏まえ、その合理性を、
①傷害及び症状の内容(例えば、神経症状のみか)
②症状の推移(例えば、治療による改善の有無、一進一退か)
③治療・処置の内容(例えば、治療は相当なものか、対症療法的なものか、治療内容の変化)
④治療経過(例えば、通院頻度の変化、治療中断の有無)
⑤検査結果(例えば、他覚所見の有無)
⑥当該症状につき症状固定に要する通常の期間
⑦交通事故の状況(例えば、衝撃の程度)
などの観点から判断し、不合理であれば別途適切な時期を症状固定日と判断している、といった説明が可能ではないかと思われます。」
と述べられています。
 
裁判官が、医師の判断と異なる判断を独自にする可能性があることを考えると、交通事故被害者として、疑義を残すようなことは避けるべきということになります。
 
具体的には、治療により何らかの効果が感じられるようであれば、そのことを正確に医師に伝えて、カルテに適宜記載してもらう必要があります。
 
また、通院を中断したり、通院の頻度が少なくなるなどした場合、症状が軽減している、あるいは治療の必要性を感じなくなっていると考えられてしまう恐れがありますので、医師の指示がある限り、定期的な通院を継続する必要があります。
 
▶ 症状固定時期が争われる場合①はこちら
 
▶ 症状固定時期が争われる場合③はこちら


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症状固定時期が争われる場合①

2015/06/06

 交通事故において、後遺障害が残ってしまった場合、「症状固定」という概念が、用いられることになります。
 
労災保険において「症状固定」とは、「傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法をもってしても、その効果が期待し得ない状態で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態に達したとき」とされています。
 
裁判例では
「症状固定日の時点で、それ以上の治療効果が期待できない状態」(横浜地判平成23年10月25日)
「治療を続けてもそれ以上の症状の改善が望めない状態」(東京地判平成24年7月17日)
等とされています。
 
若干、分かり難い表現がなされていますが、要は、一通りの治療が行われて、それにもかかわらずこれ以上、症状が改善しない状態というような意味と考えて宜しいかと思います。
 
この症状固定の時期ですが、特に、加害者側が争わない場合には、医師が後遺障害診断書の症状固定日に記載した日が、症状固定の時期とされます。
 
しかし、訴訟において、症状固定の時期が争われることも少なくありません。
 
大きくは、以下の2つの争われ方があります。
 
1 加害者側が、後遺障害診断書に記載された症状固定日より、もっと早い時期に症状固定していると主張して、治療費・通院慰謝料・休業損害の一部について、争ってくる場合
 
2 加害者側が、後遺障害診断書に記載された症状固定日には症状固定していないとして、その時点の可動域制限や状態より改善していることを主張して、逸失利益・後遺障害慰謝料の一部について、争ってくる場合
 
いずれの場合も、加害者側の主張が認められれば、被害者の方が受け取るべき賠償金の額が少なくなりますので、的確に反論、立証をして行く必要があります。

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後縦靭帯骨化症を理由に素因減額を認めた裁判例-大阪地判平成16年8月16日-

2015/05/14


本件は、事故以前から存在した後縦靭帯骨化症を理由として、50%の素因減額が認められた事案です。
 

事故の衝撃

事故態様は、信号の設置されていない交差点を徐行して進行していた被害車両の前輪付近に、加害車両の前部が衝突して、被害車両が転倒させられたというものです。
被害者は、事故時に第三肋骨骨折の傷害を負っており、事故の衝撃は相当なものであったと認められます。
 

後遺障害の程度

四肢のしびれ、上肢巧緻運動障害、歩行障害、頸椎の可動域制限、排尿困難、勃起障害等の後遺障害 併合8級(9級10号、11級7号)
 
労働能力喪失率45%とされている後遺障害8級が認定されていますので、後遺障害の程度は重いと評価できます。
 

事故前の後縦靱帯骨化症の症状の発症の有無

裁判所から「頸椎後縦靱帯骨化症と変形性頸椎症の既往症があったが、原告は、本件事故前には自覚症状がなく、その旨の診断を受けたこともなかった」と認定されています。
記載の仕方が微妙ですが、後縦靱帯の骨化の状態にあったが、症状は発症していなかったという認定と読み取れます。
したがいまして、明確な症状は発症していなかったといえます。
 

事故時の脊柱管狭窄率

脊柱管の狭窄度合いは、認定されていません。
 

素因減額の理由

裁判所は、以下のような理由を挙げて、50%の素因減額を認めました。
①事故前には自覚症状がなかった
②事故により相当な衝撃を受けている
③手足の痺れ等の脊髄症状の発現が事故から約2週間後であることからすると、本件事故が神経症状の発現に主として寄与しているとみることは困難
 

コメント

本件は、事故態様と後遺障害の程度は、それほどアンバランスになっているとは考えにくい事案です。
事故の衝撃と後遺障害の程度だけをみると、素因減額がなされなくとも不思議はないように思えます。
 
しかしながら、50%もの高い割合の素因減額が認められた原因は、四肢の痺れ等の脊髄症状の発現が事故から約2週間後だったことにあると思われます。
 
ただ、数ヶ月後であれば、まだしも、2週間後であれば、未だ事故の影響が大きいようにも考えられます。
そういう観点からすると、少し素因減額の割合が大きすぎるようにも考えられる裁判例です。
 
 
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