交通事故の被害者側に特化した札幌の法律事務所

桝田・丹羽法律事務所

骨粗鬆症を理由に素因減額を認めた裁判例-さいたま地裁平成23年11月18日判決 -

2015/04/21

この事案は、被害者が急斜面を徐行することなく進行してきた自転車と衝突して、左大腿骨頚部骨折の傷害を負い、加害者に対して損害賠償請求したというものです。

被害者の女性(35歳)は、身長150センチに対して、体重が僅か28キロしかなく、鑑定の結果、左大腿骨頚部の骨密度は、70歳から75歳に匹敵すると認定されています。
 
加害者側は、90%を超える大幅な素因減額ないし被害者に寛大な基準を参考としても70%の素因減額が認められるべきと主張しました。
 
被害者側は、素因減額は認められるべきでないとしながら、予備的に、仮に素因減額が認められるとしても、10%を超えるものではないと主張しました。
 
これに対して、裁判所は、
原告の重篤な左大腿骨頚部骨折の傷害は、〔1〕原告の骨粗鬆症の素因と、〔2〕本件事故により原告が被告運転の被告車に身体の右側面を突然に衝突されたため、防御の姿勢を取ることができないまま、身体の左側部を地面に強く叩き付けられたことによって左大腿骨頚部に強い外力が加わったことが、ともに原因となって発生したものと推認することができる
として、骨粗鬆症と事故の両方が骨折の原因となったと判断しました。
その上で、近時は、骨粗鬆症が若年層にも増えてきていること等にも触れつつ、最終的に20%の素因減額を認めました。
 
骨粗鬆症については、一般的に、高齢者に関しては、容易に素因減額が認められることはありません。
若年者についても、限定的な場合にのみ、素因減額なされる傾向にあります。
本事案は、若年者について、骨粗鬆症による素因減額を認めた一例に該当します。


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軽度外傷性脳損傷(MTBI)について

2015/04/10

東京女子医科大学脳神経外科の教授である川俣貴一医師が、軽度外傷性脳損傷(MTBI)について、以下のとおり、重要なことを述べられています。
 
・日本はCTやMRIの導入率が人口比で世界一であり、画像偏重になっている。
・受傷時に意識レベルがすごく悪いわけではなく、イメージで言うと軽い脳震盪。軽く意識消失をしたとか、ちょっとボーッとしたような状態が続くという受傷時の状態。実際には神経繊維などが損傷を受けている。
・むち打ち、外傷性頚部症候群、頚椎捻挫の中に軽度外傷性脳損傷が含まれている。
・「軽度」という名前が付いているが、これは受傷時の意識状態を言っているだけであり、症状が軽度とは限らない。非常に重篤な症状で社会復帰できない場合もある。
・画像について、CTでは中々分からない。
・MRIでも中々分からないことがある。
 
以上のことは、平成24年版赤本の下巻「外傷による脳損傷の基礎知識」に記載されています。
 
交通事故の損害賠償実務に大きな影響を与える赤本において、『CTでもMRIでも分からないことがある』と明記されていることは、非常に意味が大きいといえます。
自賠責保険においては、未だ、高次脳機能障害の認定において、CT、MRIの画像が偏重されている状況が続いていますが、こういった臨床にも精通した医師の発言の積み重ねなどにより、徐々に実務の常識を動かしていくほかないのが現状です。
 
しかし、赤本については、多くの裁判官が目を通されていると思われますので、高次脳機能障害において、CTやMRIでは分からないことがあるということは、裁判実務においても常識となりつつあるといえるのではないでしょうか。
 
ただ、CT、MRIでは分からない場合に、他のどの検査で、裁判官を説得するかについては、未だ課題が多いところです。

CT、MRIで所見が認められないにも関わらず、高次脳機能障害を認定した裁判例を分析すると、裁判官を説得するには、以下の2つの方法が考えられることが分かってきます。
 
①PET、SPECT、DTI(拡散テンソル)、MRS等の未だ評価が定まっていないとされる検査を複数の種類、実施して、複数の種類の検査で所見が認められること
 
②時を変えて、複数回の脳血流SPECT検査(PET等でも同様と考えられる。)を実施して、ほぼ同一箇所に所見が存在すること

 
ただ、現時点ではハードルは低くないといえます。
 
高次脳機能障害についての詳細はこちらをご確認下さい。



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高次脳機能障害により成年後見人が選任された場合に注意すべきこと

2015/04/09

交通事故の被害者の方が、事故により発症した高次脳機能障害等を原因として、事理弁識能力を欠く状態となり、被害者の方に成年後見人が選任されるということがあります。
 
その場合、成年後見人が選任されたことに伴い、成年後見人の申立手続費用(申立手数料、登記費用、予納郵券等)、鑑定費用、申立手続を弁護士に委任した場合における弁護士費用、後見人報酬、後見監督人報酬等を被害者の方が支払わざるを得ないという事態が発生します。
 
しかしながら、これらの費用については、事故に遭わなければ当然、発生するものではありませんので、加害者に対して請求していくこととなります。
 
これらの費用の取り扱いについて、赤本平成24年版の講演録に小河原裁判官の発言が、大要、以下のとおり、記載されています。
 
1 成年後見人の申立手続費用(申立手数料、登記費用、予納郵券等)
  →事故と相当因果関係のある損害
 
2 鑑定費用
  →事故と相当因果関係のある損害
 
3 申立手続を弁護士に委任した場合における弁護士費用
  →事故と相当因果関係のある損害とすることは困難
   弁護士に委任せずとも申立は可能
 
4 後見人報酬
  →事故と相当因果関係のある損害
 
5 後見監督人報酬
  →事故と相当因果関係のある損害
 
4、5については、既に報酬決定がされて、支払いがされている場合は、算定しやすいのですが、未だ、1度も報酬決定がなされていない場合には、具体的な金額をいくらにするかが問題となります。
 
小河原裁判官は、東京家裁の「成年後見人等の報酬額のめやす」を引用して、以下の金額が一つの目安になるとされています。
 
・後見人報酬  →月額2万円
・後見監督人報酬→管理財産5000万円以下:月額1~2万円
         管理財産5000万円超:月額2万5000円~3万円
 
後見監督人報酬については、被害者代理人の立場とすれば、管理財産が5000万円以下の場合には、上限の2万円、管理財産が5000万円超の場合には、上限の3万円で算定して、請求することになると思われます。
 
1点、考慮が必要なのは、後見監督人報酬です。
訴訟進行中に、既に成年後見人が就いている場合には、その成年後見人に関する費用に関しては、損害として計上し損ねることは考えにくいところです。
 
しかしながら、後見監督人は、訴訟が和解ないし判決で終結して、現実に、損害賠償金が加害者の保険会社から入金された後に、選任されます。
 
そうすると、和解案が裁判所から提示されたぐらいの段階で、実際の賠償額の見込みが立ちますので、後見監督人が選任されるか否かの予想が付きます。
そこで、この段階で、おおよその賠償金の見込みを家庭裁判所に伝えて、後見監督人が選任されるか否かを確認して、選任されるということであれば、将来の後見監督人の報酬について、訴えを拡張する必要があります。
 
もちろん、訴訟提起時に、請求額を前提として、後見監督人の選任の有無の予想をして、最初から、請求に含めるという方法もありますが、印紙代のことを考慮すると、和解案が出るくらいの裁判の帰趨がはっきりした時点で、訴えを拡張するという方法が、合理的と考えることができます。
 
いずれにしても、重要なことは、事故により成年後見人が選任されたという場合であれば、この成年後見に関する費用を確実に、損害として計上することです。


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