交通事故の被害者側に特化した札幌の法律事務所

桝田・丹羽法律事務所

  • 裁判例

自保ジャーナル No.2190号(令和7年9月25日発行)に弊所で担当した事案が掲載されました

2025/11/25

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本件は、自賠責保険で受傷(傷害)が否認された被害者(49歳女性)について、札幌地方裁判所が頚椎捻挫の傷害を肯定したケースです(札幌地裁令和7年2月27日判決) 。
被害者の方にとっては、自賠責保険等で傷害と事故との因果関係が否定される(受傷否認)という厳しい状況でしたが、裁判所において正当な判断が示され、ご納得いただける結果となりました 。
 

事案の概要

本件は、片側2車線道路の第2車線を走行中の原告車両に、第1車線から車線変更してきた被告車両が衝突した事案です。
原告(49歳女性)は頚椎捻挫等の診断を受けて、約9ヶ月間の通院をしましたが、自賠責保険会社は、本件事故と傷害・治療との相当因果関係を否定しました。
その後、自賠責保険会社への再申請(異議申立)、自賠責保険共済紛争処理機構への調停申立を行いましたが、判断は覆りませんでした。
そこで、被害者の方と相談し、訴訟を提起することとしました 。
提訴から、約1年1ヶ月、6回の期日を経て、本件事故と受傷との相当因果関係が肯定される判断が示されました。
 

裁判所の認定のポイント

相手方(被告)は、本件事故はドアミラー同士の接触にすぎず、原告の身体に医療機関等での治療を要するほどの外力が加わったとは捉えられないとして、相当因果関係を熾烈に争ってきました 。
裁判所は、以下の事実や状況を考慮し、本件事故により原告に頚椎捻挫の傷害が生じたと認め、被告に対し、54万4724円の損害賠償金の支払いを命じました。
 

相当の衝撃があったこと

・原告車のドライブレコーダー映像から、衝突時に衝撃音と画面上の揺れが確認された。
・原告車は左方から被告車に衝突され、若干、右に振られた 。
・本件事故はドアミラー同士の接触にとどまらず、原告車の左フロントピラー、左フロントドアパネル、左フロントドアガラス等に損傷が生じ、被告車の右フロントサイドフィックスウインドも取り換えられたものであり、ドアミラー同士の接触事故にすぎないとはいえない。
これらの事実から、原告に相応の衝撃があったと認められました。
 

原告の体勢と予期せぬ衝撃

・原告はシートベルトを締め、両手でハンドルを持っていたが、被告車は車線変更時、合図をしていなかったため、原告は被告車の動きを予期し、これに備える体勢をとることができなかった。
これらの事実から、接触の態様や原告の体勢等も併せれば、頚部が揺れるなどして頚椎捻挫の傷害を負うのがあり得ないとはいえないと認められました。
 

不自然不合理ではない治療経過

・原告は事故当日、頚部痛等を訴えて受診し、頚椎捻挫と診断された。
・その後も継続的に頚部や肩甲骨部の痛み等の症状を訴え、内服薬や軟性カラーの処方を受け、効果を感じていた。
・事故前3年間は頚部の治療を受けていなかったことから、原告が訴えた症状が本件事故以外の原因で生じたとの疑いは生じない。
・外傷性の所見がないことや神経学的検査の未実施をもって、受傷の事実自体が直ちに否定されるものではない。
 

担当弁護士の所感

近時、自賠責保険が事故と受傷との因果関係を否定することが増えている印象があります。
自賠責保険で事故と受傷との因果関係が否定された(受傷否認)ケースであっても、訴訟においてドライブレコーダー映像、車両の損傷状況、受傷時の体勢、予期せぬ衝撃、そして通院経過などの具体的な事実を丁寧に主張立証することで、裁判所で判断が覆り、受傷が肯定されることがあります。
 
自賠責保険の判断がどうしても納得いかないという場合、全ての事案において、裁判所で判断が覆るわけではありませんが、証拠関係から、裁判所で覆る見込みが有るかどうかはある程度見通しが立つことも少なくないです 。
 
弊所では、事故態様や医学的な主張を詳細に行うことはもちろん、被害の実態を明らかにすることにも力を注いでいます 。
自賠責で受傷否認の判断をされていてお困りの場合、訴訟等を経て、適切な賠償の実現が可能となることもあります。
ご懸念がある場合、まずは一度ご相談ください。

弁護士 丹羽 錬

医師による症状固定日と裁判所認定の症状固定日が異なる場合に、前者を消滅時効起算日とした裁判例(名古屋地判平成30年2月20日)

2025/02/07

問題意識

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多くの交通事故事案では、事故発生から6ヶ月~1年程度で症状固定と診断されて、後遺障害申請を行いますので、訴訟提起に至った段階で、消滅時効が問題となることは多くないです。
 
もっとも、負傷した怪我の内容によっては、医師の診断する症状固定日までの治療期間が数年に及ぶことがあります。
後遺障害事案では、症状固定日から消滅時効が進行すると考えるのが一般的ですので、事故発生から症状固定まで数年が経過したとしても、症状固定から徒に時間を要しなければ、消滅時効の問題は生じにくいといえます。
 
しかしながら、事故発生から医師の診断する症状固定日までの治療期間が数年に及ぶような事案について、訴訟提起すると、保険会社側の弁護士は、多くの場合、もっと早期に症状固定に至っていたはずだと主張してきます。
症状固定日が早まれば、その分、治療費、休業損害、傷害慰謝料が減りますので、それが大きな狙いと思われます。
 
更に、付け加えて、早期に症状固定していたのだから、その早期の症状固定日を消滅時効の起算点と考えると、訴訟提起時点で既に消滅時効期間が経過しており、消滅時効が完成していると主張してくることがあります。
もし、このような主張が認められることになると、被害者の方の請求が全て否定されるということになりかねません。
この問題に関して、裁判所として明確な判断を示したのが、今回取り上げる名古屋地判平成30年2月20日となります。
 

裁判例

この名古屋地判平成30年2月20日の事案の時系列は以下のとおりです。
(一部簡素化しています。)
 
事故日                  :平成21年3月19日
医師の症状固定日:平成26年2月 6日
訴訟提起日     :平成27年7月30日
裁判所症状固定日:平成22年8月27日
 
事故発生から症状固定まで、約4年11ヶ月が経過しています。
事故発生から訴訟提起まで、約6年4ヶ月が経過しています。
ただ、症状固定から訴訟提起までは、約1年半しか経過していませんので、一般的な消滅時効の考え方からすると、消滅時効は問題となりません。
 
しかしながら、この事案では、被告側が、事故から約1年5ヶ月後の平成22年8月27日には症状固定に至っており、その時点を症状固定日とすると、訴訟提起まで約4年11ヶ月が経過しており、消滅時効の期間を経過していると主張していました。
(この当時の消滅時効期間は3年でしたので、もし、平成22年8月27日が症状固定日だとすると、理論的には、訴訟提起時に既に約4年11ヶ月が経過しているため、消滅時効が完成しているということになってしまいます。)
 
この事案で、裁判所は最終的に、以下のとおり判示して、症状固定日については被告主張の平成22年8月27日を採用しながら、消滅時効の起算点については、医師が症状固定と診断した平成26年2月6日と判断して、被告による消滅時効の主張を認めませんでした。
「(1) 前記3(2)ア(ア)のとおり、原告の右肩の受傷に関する症状固定時期は、平成22年8月27日であるが、消滅時効の起算日は、前提事実(4)のとおり、医師によって症状固定診断がされた、平成26年2月6日と解するのが相当である。その理由は以下のとおりである。
(2) 民法724条前段にいう『損害…を知った時』とは、被害者において、加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度に損害を知った時を意味すると解される(最高裁平成14年1月29日判決民集56巻1号218頁参照)。
そして、不法行為により後遺障害が残存した事案において、医師による後遺障害診断時と客観的に症状固定と認められる時点(裁判所が認定した症状固定時)とが異なる場合、被害者は医師による診断又は説明を受けて初めて自らの症状が固定したとの認識を有するに至るのが通常であるから、通常、後遺障害診断書の作成によってなされる症状固定診断よりも前に医師から症状が固定していることの十分な説明を受けたなど特段の事情がない限り、医師による症状固定診断時をもって、被害者において、加害者に対する損害賠償請求が事実上可能な状況の下に、その可能な程度に損害を知ったものとして、消滅時効の起算日とするのが相当である。
そうすると、本件でも、後遺障害診断書が作成されるよりも前に、原告が医師から症状が固定していることの十分な説明を受けたなど特段の事情は認められないから、医師の症状固定の診断時である平成26年2月6日をもって、消滅時効の起算日とするのが相当である。
(3) そして、原告は、被告Y1に対する訴え(A事件)を平成27年7月30日に、被告Y3に対する訴え(B事件)を平成29年1月31日に提起し、本件事故に基づく損害賠償を請求しているから(当裁判所に顕著)、消滅時効は完成していない。」
 
交通事故の被害者が、医師の診断した症状固定日を信頼して行動していたのに、後日、それが否定されて、いつのまにか消滅時効が完成していたというのは、明らかに不当な結論です。
そのため、この判決の判断は極めて穏当で妥当なものと思われます。
理由付けも合理的であり、適切です。
 
しかしながら、裁判官も人間ですから、どうしても当たり外れがあることは否めません。
このような主張が被告側からなされた際に、形式的に消滅時効を認める方向で考える裁判官がいないとも限りません。
そのような場合には、この裁判例を引用したり、証拠提出するなどして、被害者の権利を保全する必要があるといえます。
消滅時効に関して、被害者側弁護士として参考になる1つの裁判例としてご紹介致します。

弁護士 丹羽 錬
 

プロフィール

当事務所は、交通事故の被害者側に特化した法律事務所です。交通事故事件に関する十分な専門性・知識・経験を有する弁護士が事件を担当致します。
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