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桝田・丹羽法律事務所

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後縦靱帯骨化症による素因減額

後縦靭帯骨化症とは、椎体骨の後縁を上下に連結して、背骨の中を縦に走る後縦靭帯が骨になり、その結果、脊髄の入っている脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から分枝する神経根が圧迫されて、感覚障害や運動障害等の神経症状を引き起こす病気です。

骨になってしまう脊椎の部位により、頚椎後縦靭帯骨化症、胸椎後縦靭帯骨化症、腰椎後縦靭帯骨化症と呼ばれています。

国内の成人の調査では、骨化が見つかる頻度は、1.5%から5.1%、平均3%と報告されていますが、骨化が見つかっても必ずしも全員に症状が認められるわけではなく、実際に症状が出現するのは一部といわれています。
中年以降、特に50歳前後で発症することが多く、男性に多いことが知られています。糖尿病や肥満の方に発生頻度が高いともいわれています。

脊柱管の狭窄率が40%を超えると脊髄症状を発症しやすく、50%を超えると6割の症例に脊髄症状が発症し、60%を超えるとほぼ全例に脊髄症状が発症するといわれています。

骨化は、緩徐に進行して少しずつ大きくなるとされており、骨化のある患者の経過を約10年観察すると、非常にゆっくり骨化した部分が長くなり厚みが増すことが報告されており、短期間で大きくなったという報告はないとされています。


裁判官の見解

鈴木裕治裁判官は平成21年版赤本講演録において、
「頸椎後縦靱帯骨化症に関する裁判例は、平成9年以降、そのほとんどが素因減額を肯定し、2、3割減額していますが、中には5割の減額を認める例もあります。他方、素因の寄与が明らかでないが、寄与度が少なく減額しなくても公平の理念にもとらないとして減額を否定した裁判例や、加齢性による脊柱管狭窄、後縦靱帯骨化症等について、通常の加齢に伴う程度を越えるものであったとの立証がないとして減額を否定した裁判例もあります」と述べられています。


裁判例の傾向

裁判例を分析すると概ね以下の要素で、素因減額が判断されています。

①事故態様と後遺障害の程度
事故態様が軽微であるにもかかわらず、重篤な後遺障害が残ってしまった場合には、素因減額が認められる傾向にあります。
裁判官は、当該事故態様から、通常であれば認められる後遺障害の程度との比較で、ざっくりとした素因減額の心証を採っているように見受けられます。
したがって、大きな事故の場合には素因減額は認められない傾向にあるといえます。

事故の大きさは、車両の修理費で考えられてしまうことが多いです。
そのため、修理費が小さい(概ね20万円以下程度)にもかかわらず、重篤な後遺障害が残ってしまった場合には、注意が必要といえます。
 
②事故以前に後縦靱帯骨化症の症状が認められたか
事故以前から、後縦靱帯の骨化だけでなく、それによる症状自体が認められた場合には比較的、大きな割合の素因減額が認められやすい傾向にあるように見受けられます。
 
③事故時の脊柱管の狭窄率
事故時の脊柱管の狭窄率が40%を超えているような場合には、素因減額が認められやすいように見受けられます。
 
④事故後の症状の発症の状況
事故から、一定程度、期間が経過してから、脊髄症状が出てきたような場合には、後縦靱帯骨化症の影響が大きいと判断されるため、比較的大きな割合の素因減額が認められる傾向にあるように見受けられます。


20%の素因減額を認めた裁判例

 
大阪地判平成12年6月28日
 

30%の素因減額を認めた裁判例

 
最判平成8年10月29日
 
東京地判平成13年4月24日
 
大阪地判平成21年6月30日
 

50%の素因減額を認めた裁判例

 
大阪地判平成13年10月17日
 
大阪地判平成16年8月16日
 
大阪地判平成24年9月19日