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大阪高裁平成21年3月26日判決-CT、MRIで所見が認められないにも関わらず、高次脳機能障害を認定した裁判例その2- 

大阪高裁平成21年3月26日判決は、札幌高裁平成18年5月26日判決に引き続き、CT、MRIにおいて、所見が認められないにも関わらず、高次脳機能障害を認定した裁判例です。
 

事案の概要

事故態様は、車両重量10トン、最大積載量9トンのダンプトラックが、下り勾配を進行中に、ワンボックスタイプの被害者車両と正面衝突して、被害者車両を大破させ、さらに衝突地点から6.2m後方に設置されていた電柱まで、被害車両を押し戻して、被害車両後部を電柱に衝突させて大破させたという、かなり激しい内容です。
 
被害者には、CT、MRIにおいて所見が認められませんでした。
意識障害について、被害者は事故の衝撃により気絶して、救急車で搬送中に意識を取り戻しましたが、見当識障害の状態が搬送から約6時間後まで続きました。

自賠責保険は非該当の判断でした。

裁判所は、被害者が事故により高次脳機能障害を負ったと判断し、後遺障害等級9級に該当すると認定しました。
 

認定のポイント

 

事故の衝撃

事故態様は、車両重量10トン、最大積載量9トンのダンプトラックが、下り勾配を進行中に、ワンボックスタイプの被害者車両と正面衝突して、被害者車両を大破させたというものであり、相当に大きな衝撃であったことが分かります。
さらに衝突地点から約6.2m、被害車両は、後方に押し戻されて、電柱に衝突し、後部が大破したということであり、その時点でも、相当に大きな衝撃があったことが分かります。

つまり、本件事故において、被害者は相当に大きな衝撃を2回受けていたことが分かります。
実際、被害者は、頭部をフロントガラスにぶつけており、右前頭部に20センチ、左頬部に4センチの縫合処置を受けており、頭部に強い衝撃を受けたことが認められます。
 

画像所見

平成14年 5月 2日 本件事故発生
平成15年 6月 3日 脳血流SPECT検査
平成16年 3月16日 脳血流SPECT検査
いずれの検査でも、左前頭葉から側頭葉に軽度の血流低下が認められています。

つまり、事故後の2回の脳血流SPECTで、所見自体は軽微であるものの、同じ箇所に所見が認められています。
 

意識障害

被害者は事故の衝撃により気絶して、救急車で搬送中に意識を取り戻し、見当識障害の状態が搬送から約6時間後まで続きました。

つまり、自賠責保険が求めるような重度の意識障害は認められませんが、一定程度の意識障害があったことが明確に認められます。
 

症状

事故以前から経営していた建築工房が、事故後、廃業に追い込まれています。
また、その後、再就職した先も、3ヶ月程度で退職を余儀なくされています。
そして、一番大きいのは、高次脳機能障害を専門とする医師の下で、2年10ヶ月に渡り認知リハビリを受けていたことであり、そこで、事故後の高次脳機能障害の典型的な症状が認められています。
裁判所は、事故後、被害者に高次脳機能障害の典型的な症状が認められることについては、確信を持っていたと推測されます。
 

医師の診断

高次脳機能障害を専門とする医師が、2年10ヶ月に渡り、毎週の頻度で認知リハビリを行った上で、高次脳機能障害と確定診断をしています。
 
加害者側の医師は、被害者には高次脳機能障害様の症状が存在するものの、それは、非器質性精神障害であると主張しています。
しかし、非器質性精神障害は2~3年で完治するのが一般的であるとして、非器質性精神障害の主張は排斥されています。
 

コメント

以上のようなポイントが功を奏して、高次脳機能障害が認定されたと思われます。

特に事故の衝撃が相当に大きいと推測されること、高次脳機能障害の専門医が2年10ヶ月という長期間に渡り認知リハビリを通じて、経過観察して確定診断していることが大きなポイントになったと思われます。
事故の衝撃が相当に大きいことから、裁判所は、事故態様が高次脳機能障害の発生原因に十分になり得ると認定していますし、専門医が長期間経過観察した上で、高次脳機能障害と診断していることから、事故後、高次脳機能障害に典型的な症状を発症していることについても、裁判所は確信を持っていたと推測されます。
 
本裁判例によれば、CT、MRIで所見が認められなくとも、以下の場合には、訴訟により、救済される余地があるということになります。
 

 1   事故の衝撃が相当程度大きい
 2    一定程度の意識障害が認められる
 3   複数回の脳血流SPECTで、ほぼ同一箇所に所見が存在する
 4   事故前後の変化について、神経学的検査以外に客観的に証明できる証拠が存在する
  

 札幌高裁平成18年5月26日判決との比較

CT、MRIにおいて、所見が認められないにも関わらず、高次脳機能障害を認定したという点は、共通していますが、以下のとおり、相違点も存在します。 
 
   札幌高裁18.5.26  大阪高裁21.3.26  比較結果
 事故態様  トラックに後ろから追突
 された
 10トンダンプと正面衝突  札幌高裁の方が
 かなり軽い
 画像所見  PET
 SPECT
 MRS
 脳血流SPECT  札幌高裁の方が
 種類が多い
 意識障害  追突された瞬間に目の前
 が 真っ暗になった
 気絶して、見当識障害の
 状態が約6時間後まで
 継続    
 札幌高裁の方が
 軽い
 症状  客観的に相当程度立証  客観的に相当程度立証  同等程度に明確
 医師の診断  5人の医師が肯定  1人の医師が肯定  札幌高裁の方が
 人数が多い

共通点

事故前後の症状の変化について、かなりの程度、客観的に証明ができているという点は、両方の裁判例に共通しています。
症状の変化について立証できている点が、裁判所の心証を被害者側に傾かせた最大のポイントだと思われます。
 

相違点

事故態様と意識障害の程度については、大阪高裁の方が、被害者にとって有利な状況ですが、画像所見と医師の診断については、札幌高裁の方が、被害者にとって有利な状況といえます。
プラスマイナスを考慮すると、総合的には同程度と評価できるかもしれません。
 

まとめ

結局、裁判所の心証を被害者側に傾かせたのは、事故前後の症状の変化が明確に立証できたことにあると思われます。
裁判所は、心証を固めると、固めた方向に有利に使える証拠を繋ぎ合わせて判決を書き上げているように見受けられますので、とにかく、事故前後の症状の変化の立証に最大の力を注ぎ、それ以外の重要な要素についても、全て、一応要素を満たしうるという程度まで証明することが必要と判断されます。